Vol.56(2009. 4. 8.)
【卯月の八】
「蔵出し その2


  先月に引き続き、蔵出し第2弾です。今月の原稿は、『栃木県立鹿沼東高等学校図書館便り』及び『栃木県高等学校ユネスコ指導者連絡協議会誌』に寄稿したものです。今回も多少手を入れて、ここに”蔵出し”することにします。


   本の匂い

  図書館の匂いが好きだ。生徒諸君は図書館に匂いがあるの?と思われるかもしれないが、私は間違いなくなんともいえない匂いを感じる。何の匂いかといえば、おそらく本の匂いなのであろう。
 
  私は平成10年4月から10年間学校現場を離れていた。そして1年前の4月に本校に赴任した。しかし、学校現場から離れての10年間という歳月はあまりに長く、学校というものを思い出せないでいた。
  (このままでは学校の感覚を思い出せないまま入学式がきてしまう)と焦りにもにた思いが全身を覆い始めたそんなとき、ふと校内を歩いてみようかと思い、まずは管理棟の二階に向かった。行くと図書館があった。歩き始めた時には別に図書館を意識したわけではなかったのだが、足は自然に図書館に向けられた。
  そして入館。そして感激。
  その時、今自分は学校にいると感じ、何とも言えぬ柔らかな空気が全身をつつみこんでくれた。学校というものを思い出させてくれたのは、そう、図書館の空気の匂いであった。
 
  私は保健体育の教師である。体を動かすことは大好きである。では、グランドにいるのと本を読んでいるのとどちらが好きか、と聞かれたら答えに窮するくらい本が好きなのである。
 
  親から与えられた本から飛び出したのは小学校五年生の夏休みであった。堀江健一という冒険家の書いた「太平洋一人ぼっち」という題名の本で私は小さな旅立ちを始めた。この本が私に与えたものは計り知れない。なぜならば、自分で読みたいと思って読んだ、絵のない最初の本だったからである。
  そう、読書とは自分で本を選ぶことから始まるのである。自分の興味関心や読解力、そして何よりも己の感性を無意識のうちにまとめあげ一冊の本を選択したときは心は高揚し、何ともいえぬ気持ちになるのだが、そんなハイな気持ちになれることを知ったのは、そのときが最初であったような気がする。

  高校時代を思い起こしてみる。
  入学式の帰りに買った「才能は伸ばせる」、1年生の授業で行った豆テストの結果が偶然良かったことで国語教師からいただいた「神秘の世界」、2年生の修学旅行前に読んだ「大和古寺風物詩」、歴史に興味を持ち関東選手権に行く列車の中で読んだ「岩宿の発見」など、いずれのときもハイになっていた。

  ところで、昔好きだった音楽を何年か振りに聞くと、若返りのホルモンが出るような気になるのだが、昔読んだ本を忘れた頃に読むことも捨てたものではない。

  昨年「まぼろしの邪馬台国」が映画化されたのを機に40年前に買った原作本を本棚から出してみた。もちろん買ったばかりの本を開いたときのようなインクの匂いはしなかった。それどころかページは茶色に変色し、埃を取り払うのに多少の時間を要した。
  パラパラとページをめくっていると赤鉛筆で線が引いてある。
  『これからの邪馬台国は、従来の考え方や想定の仕方にとらわれることなく、いままでのゆきがかりをすてて、ふりだしにもどり、自由な立場で追及されるべきであろう。』
  そんな文章にあこがれた高校時代であった。自由という言葉に限りない魅力を感じていた頃のことである。
 
  青臭いと言うなかれ。ほこり臭いと言うなかれ。
  我が家の小さな書庫にも鹿沼東高校の図書館にも勝るとも劣らぬ素敵な匂いがあり、そこにいると数十年前にタイムスリップできることを発見したのはつい最近のことであった。
 


   身近でできること

  普段何気なく使っているUNESCOとは国際連合教育科学文化機関、すなわちUnited Nations Educational ,Scientific and Cultural Organizationの頭文字を取ったもので、本部はパリにあります。
 
  「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」とUNESCO憲章前文にありますが、この言葉が人々の心に触れ、人類が二度と戦争を繰り返すことのないようにとの願いを込め1946年に創設、日本は1951年に加盟国になりました。栃木県ユネスコ連絡協議会は全国279のユネスコ協会の一つで戦後復興期に設立された伝統ある組織です。
 
  さて、ユネスコの活動の中で誰でもできることといえば、一人ひとりが世界平和をイメージすることですが、世界の平和はイメージするだけで解決できるほど簡単な問題ではありません。
  ではどうしたらよいか。その答えの一つとして、私たち一人一人が身近にできることを探し、行動を起こし、一歩前進することがあります。
 

1 世界遺産活動
  地球そして人類が生み出した人類共通の宝物である世界遺産は、2008年7月現在、文化遺産679、 自然遺産174、複合遺産25がユネスコに登録されています。
  そのうち、日本では文化遺産11、自然遺産3の14となっています。
  栃木県では『日光の社寺』が登録されていますが、県民の何割の方がご存じでしょうか。もっともっとアピールする必要がありそうです。
  修学旅行で関西に行けば『法隆寺地域の仏教建造物』『古都京都の文化財』『古都奈良の文化財』ちょっと足をのばせば『姫路城』『原爆ドーム』『厳島神社』など、沖縄に行けば『琉球王国のグスク(城)及び関連遺産』があります。皆さんも修学旅行に行ったなら積極的にこのような遺産を見学し、後世に保存する決意を新たにしてみましょう。同時に目につかないような小さなゴミでも拾ってゴミ箱に捨てるか、持ち帰りましょう。
 そのようなことから、いつでも、どこでもゴミを拾うようなきっかけができ、そのような心をもつ人々の広がりが地球の環境問題解決にもつながるのです。


2 世界寺子屋運動
  私たちには容易に想像できないことですが、世界にはいろいろな事情で学校に行けない子どもが7,500万人いるといわれています。もちろん学校に行けなければ成人しても 文字の読み書きが困難なことは目に見えています。世界寺子屋運動は学校に行けない子どもたちや行けなかった大人に教育の機会を提供する運動です。
 
  「僕の家はお金がなかったし、お父さんもお母さんも字が読めません。学校へ行きなさいとも言われませんでした。僕はそれが普通なのだと思っていました。」
   (バングラデシュ9歳の男の子、(社)日本ユネスコ協会連盟ホームページより)

  

  2,009年1月27日から30日までの4日間、本校では『書き損じハガキ回収運動』を展開しました。
  もちろん私も参加しました。家の中を捜したところ20年以上前のハガキも出てきました。そうして本校では953枚のハガキを日本ユネスコ協会に送付することができたのです。これはネパールでは鉛筆6,671本に、アフガニスタンではノート953冊とボールペン1,906本に、インドでは給食3,812回分に相当します。 
  このようなことを実践することで、恵まれた我が国を実感するとともに世界の子どもたちの生活について考えることができるのです。


3 平和の鐘(かね・おと)を鳴らす運動
  昨年は北京でオリンピックが開催されましたが、華やかな大会の裏に生活苦や戦禍の影響等で参加できない若人がいたことも事実です。
  映画『最後の早慶戦』は戦争の悲惨さを訴えかけています。将来を嘱望されたスポーツ選手が何人も戦争の犠牲となっているのは我が国のことだけではありませんし、スポーツ選手だけの問題ではありません。今も現実に起こっている話なのです。
  個人的な話で申し訳ありませんが、北京オリンピックの後、私は校長室に一つの鐘を置くことにしました。佐野の天命鋳師Wさんが心をこめて仕上げた作品です。直径3.5cm、高さ6cmと小さなものですが、毎朝鳴らすことにしています。
  スポーツの祭典=平和の祭典であることを信じて、小さなことではありますが、平和の鐘を鳴らし、平和について考えることが当面の私にできるとことなのです。


  ユネスコの理念を今一度思い起こし、ユネスコ活動を身近なことから始めましょう。
  同時に、一人でも多くの理解者を増やしましょう。そのようなことが、いつの日か世界中の人々の間で共通理解を生み、世界の平和につながるものと信じています。
 

 
       
Vol.1 JUVY 創 設
Vol.2 理想の指導者とは
Vol.3 素晴らしき指導者
Vol.4 回顧・2005年
Vol.5 新春は箱根と共に
Vol.6 凛として颯爽と
Vol.7 眼のつけどころ
Vol.8 視点・感点
Vol.9 思い出に残る一言
Vol.10 新たなる旅立
Vol.11 JUVY誕生
Vol.12 春のスポーツシーズン到来
Vol.13 指導者としての実践力とは
Vol.14 ジュニアとシニア・その1
Vol.15 ジュニアとシニア・その2
Vol.16 わたしなりに言いたいことを…
Vol.17 「眼に見えない力」
Vol.18 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その1」
Vol.19 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その2」
Vol.20 「トーナメント・有限と無限の交差点」
Vol.21 「定石とひらめき」
Vol.22「合同練習会」
Vol.23「国民体育大会」
Vol.24「心・技・体」
Vol.25「再興」
Vol.26「神在り月」
Vol.27「修行」
Vol.28「言霊」
Vol.29「夢」
Vol.30「影響力」
Vol.31「健康」
Vol.32「我家の凜氣」
Vol.33「食」
Vol.34「インカレ」
Vol.35「2007年 JUVY TC前期総括」
Vol.36「今日まで、そして明日から」
Vol.37「国体関ブロ観戦記」
Vol.38「想いを文字で伝えるということ」
Vol.39「人間の運命について」
Vol.40「思いつくまま継走の如く」
Vol.41「広き世界」
Vol.42「スピード・スピード・スピード」
Vol.43「白と青、そして遊」
Vol.44「36−10」
Vol.45「この卯月に思ったこと」
Vol.46「スプリント」
Vol.47「”運”と”付”」
Vol.48「純粋にひたむきに」
Vol.49「オリンピックへの興味・関心」
Vol.50「ラストゲーム」
Vol.51「氣づき」
Vol.52「私見・学校というところ」
Vol.53「チーム」
Vol.54「遠征講習会」
Vol.55「蔵出し その1」
Vol.56「蔵出し その2」

Circle-JUVY General Manager OKUZAWA Yasuo