Vol.55(2009. 3. 8.)
【弥生の八】
「蔵出し その1


 この原稿は、『栃木県立鹿沼東高等学校生徒会誌』及び『PTA会報』に寄稿したものです。本校関係者以外はおそらく目に触れることがないと思いますので、少々手を入れて、ここに”蔵出し”することにしました。
 
 
 学ぶということ
 
 鹿沼東高校に赴任してからまもなく1年がたとうとしています。その間、多くの感動を体験しました。
 その中でも上位の部類に入る感動、君たちの受けている授業を観察にいった時に感じたことを書こうと思います。
 
 私は(生徒に戻った気持ちで授業に参加したらよいのではないかと)と思い、この心構えで教室に行くことにしました。すると、教員になってからの感覚とは違った感覚が私の内面に広がっていました。
 
 自分の高校時代を思い起こすと、毎日が苦痛の連続だったような気がします。
 家に帰っても、その日学校で出された課題をやることと、翌日の予習をやることで精一杯でした。日付が変わる前に床に就ける日は3年間で何日あったでしょうか。
 幸い、私には部活動というものがあり、そのことに情熱を燃やすことができたので、部活動に入っていない同級生とは多少は違う感覚で生きられたと思います。それでも、目指す大学に入ることを最たる目標と考えていたことは違いありません。
 しかし、受験と部活だけの高校生活を過ごせたことには感謝しています。
 
 さて、君たちの側になって授業に参加していたら、授業を受けるということは、これほどまでに有意義な時間を過ごすということなのか、と感じてきました。
 私は高校時代になぜこのような気持ちになれなかったのだろうか。もし、今私が高校生なら、「授業は厳しい、しかし、かくも楽しいものだ!」と叫んだかもしれません。
 
 幕末『適塾』という私塾がありました。場所は現在の大阪市東区北浜というところです。適塾は緒方洪庵が開き、塾頭(塾生の中でも極めて出来の良い人物)には福沢諭吉や大村益次郎などがいました。ここの塾生の学びのすごさは強烈であったといわれています。
 「これ以上できないというほど勉強した。目が覚めれば本を読むというくらいだから、適塾にいる間は枕というものをしたことがない。夜は机の横でごろ寝していたのだ。」と司馬遼太郎著『歴史の中の邂逅』に福沢諭吉の言葉がありました。事実そのようだったと信じています。
 
 私は一昨年の日本選手権の200m決勝前に適塾跡(建物はほぼ当時のまま)を訪れ、二階の塾生部屋に上がってみました。そこは塾生たちにとっては教室であり寝起きする場所でもあったわけで、皆ひしめくように暮らしていたと伝えられています。まさしく『起きて半畳寝て一畳』です。いや、それ以上だったかもしれません。
 
 JUVYのクラブハウスとして使用している家屋は今から35年ほど前に、民家を改造し『司若寮(しじゃくりょう)』と名付け、多くの高校生が寝起きしていました。多い時には6畳2間と3畳と2畳分の板の間に12人が生活していたこともあります。当時の私は『適塾』や『松下村塾』のイメージを勝手に思い描き得意になっていたのかもしれません。
 
 閑話休題。もちろん皆さんは、ここから巣立った人物の多くが日本の近代を切り開いていったことはご存じのことと思います。
 塾生部屋で想像を膨らませているうち、私はむやみに感動し、坐していた畳から立ち上がることができなくなりました。
 
 現在とはあまりにも違う学習環境で、比べること自体が乱暴であることはわかっています。しかし、『学ぶ』という本質は同じはずです。
 そんなことを考えると、本校の生徒は進学校として一人ひとりがもっと強い進路意識を持ち続け、勉学というものに対して日頃から厳しさを求めてもよいのかもしれません。
 
 「昔学校を出た人が『勉強なんかしなかった』と後輩に言うのはやめてほしい。学生が真に受けて勉強しなくなるのはその学生の将来にとって困る」と慶応大学の安西祐一郎塾長は訴えています。まさしくその通りです。諸君はそのような言葉を、今の自分の都合で信じてはいけないのです。
 
 学問に完結はありません。むしろ学校を卒業してからの学びが人生を豊かにするのです。その時、高校時代の勉強が、目に見えぬ日常の努力が、知らず知らずのうちに役にたつのです。
 鹿沼東高校生諸君!
 君たちには厳しい日々の生活を乗り越えながら本校で学んだことに自信を持ち、明るく、聡く、颯爽と生きていかれんことを期待します。
 
 

 見守るということ

本年度の本校生徒の活躍を振り返りますと、陸上競技部の国体入賞や弓道部の東日本大会優勝に加え、国際理解弁論大会県知事賞受賞など部活動関係で鹿沼東高校の存在がますます示されているようで喜ばしい限りです。
 また、中国やモンゴルへの派遣事業にも参加する生徒が出るなど、本校の国際理解教育が新たな一歩を踏み出したと感じられる年でもありました。

 さて、本校は近年進学校としての実績を着実に伸ばしてきています。しかし、一人ひとりが思い描く進路の実現のためには、さらに望ましい生活習慣の確立が望まれるところです。特に、遅刻せずに登校することや家庭での学習時間の確保等、当たり前のことを当たり前にできるようにならなければ、今後の伸びが危ぶまれます。
 
 年明けの話です。狭山茶の栽培から販売までを手がけているM大学競走部OBの方からいただいた年賀状に目が留まりました。
 小さな茶葉の新芽が出ている写真とともに、
 「葉は語らない。だから、真剣に見守る。」と自筆でしたためられていたのです。
 
 高校生と言えば体も大きく、理路整然とした話もします。
 しかし、高校生は子どもと大人のどちらでもない位置に属しているようです。だからこそ、生徒一人ひとりが持つ素晴らしい才能を開花させるために、家庭と学校が連携して見守りながら基礎を育てる必要があるのではないでしょうか。小さくてもよいから花を咲かせ実らせてやることは、我々大人の責務です。三年生には卒業後の開花のために、二年生、一年生には開花の準備のために応援してやらなければなりません。
 開花までには養分・水分が十分でなければならないように、家庭での学習時間の確保や学校での学習への集中などは基本中の基本です。当然、授業への参加が真剣であれば、遅刻など考えられない話です。
 このような小さなことを毎日積み重ねることは意外と難しいことですが、そのようなことが重なることにより、生徒の思い描く進路設計が実現するものと考えています。
 
 学校でも家庭でも、大人にしか見えない眼で見てやることは、我々大人にしかできないことなのです。保護者の皆様には今後も良い意味での声掛けそして見守りをお願いします。
 
 

 最近聞いたことば
 
 「ちゃんとした師の下で学ぶと、弟子はそのあとを追い、師と同じことをしようとする」 (海老沢泰久)

 「嘘をつかない、ことばに責任を持つ、約束を守る。この三つを必ず実行する人には、信頼して大きな仕事を頼むことができるが、こういう人はなかなかいない」(安西祐一郎)
 
 「本当の師は誰か」と問われた弟子が師に似てきていれば、答えずともわかるか…。
 師弟の原点は『つないでいく心』なのかもしれない。
 
 物心ついたころから教わってきたことが、今も通用する。というより、世の中それができない人で満ち溢れているのではないか…。
 教育の原点は『三つ子の魂』なのかもしれない。
 
 しかし、『つながれた心』で受けた『三つ子の魂』も、軸をぶらさず物ごとを見極め、実践していける能力が備わっていなければ本物にはなれまい。
 


 今年から鹿沼東高校校長室には西藤宏司先生の書『万事眼力』が掛けられた。

       
Vol.1 JUVY 創 設
Vol.2 理想の指導者とは
Vol.3 素晴らしき指導者
Vol.4 回顧・2005年
Vol.5 新春は箱根と共に
Vol.6 凛として颯爽と
Vol.7 眼のつけどころ
Vol.8 視点・感点
Vol.9 思い出に残る一言
Vol.10 新たなる旅立
Vol.11 JUVY誕生
Vol.12 春のスポーツシーズン到来
Vol.13 指導者としての実践力とは
Vol.14 ジュニアとシニア・その1
Vol.15 ジュニアとシニア・その2
Vol.16 わたしなりに言いたいことを…
Vol.17 「眼に見えない力」
Vol.18 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その1」
Vol.19 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その2」
Vol.20 「トーナメント・有限と無限の交差点」
Vol.21 「定石とひらめき」
Vol.22「合同練習会」
Vol.23「国民体育大会」
Vol.24「心・技・体」
Vol.25「再興」
Vol.26「神在り月」
Vol.27「修行」
Vol.28「言霊」
Vol.29「夢」
Vol.30「影響力」
Vol.31「健康」
Vol.32「我家の凜氣」
Vol.33「食」
Vol.34「インカレ」
Vol.35「2007年 JUVY TC前期総括」
Vol.36「今日まで、そして明日から」
Vol.37「国体関ブロ観戦記」
Vol.38「想いを文字で伝えるということ」
Vol.39「人間の運命について」
Vol.40「思いつくまま継走の如く」
Vol.41「広き世界」
Vol.42「スピード・スピード・スピード」
Vol.43「白と青、そして遊」
Vol.44「36−10」
Vol.45「この卯月に思ったこと」
Vol.46「スプリント」
Vol.47「”運”と”付”」
Vol.48「純粋にひたむきに」
Vol.49「オリンピックへの興味・関心」
Vol.50「ラストゲーム」
Vol.51「氣づき」
Vol.52「私見・学校というところ」
Vol.53「チーム」
Vol.54「遠征講習会」
Vol.55「蔵出し その1」

Circle-JUVY General Manager OKUZAWA Yasuo