Vol.38(2007. 10. 8.)
【神無月の八】
 「想いを文字で伝えるということ」
  
 現在、東京六大学野球秋のリーグ戦のまっただ中である。
 3年前の今頃は毎日いてもたってもいられない日々を過ごしていた。
 
 
                   (1)
 
 私は野球少年からかけっこ馬鹿に変身した一人であるが、二人の倅は学童時代から一途に野球を愛し、最終的には長男が立教大学、次男が慶応義塾で、それぞれ本格的な野球を体験した。(もっとも、長男は昨年より急遽矢板中央高校の野球に関わりをもつことになったことから、まだ野球人生が続いているようであるが…。)
 
 親離れ、子離れとういう言葉があるとおり、子どもは親から離れる時期がある。
 我が家でも高校になるころには親の話を聞かなくなり、時々親子喧嘩もするようになった。今振り返れば、実に健全な親子関係が構築できていたと思っている。
 学校はやめるは(これは本人の責任は全くないが)、親に別なところに住め(さすがに出て行けとは言わなかったが…)と言うは、遠征では一緒の車に乗りたがらないは…。
 もちろん、肝心なことは真剣に膝を交えて話しはしたが…。
 
 それが、突然私の話に耳を傾けるだけではなく、積極的に質問をするようになったのである。
 それは、2人とも同じ時期、大学3年の11月頃からであった。それにはわけがある。長男は投手兼学生コーチで背番号14(2年生の頃は28)、次男はヘッドコーチで背番号29をいただくことになったからである。
 スポーツ指導のプロを自認する私を大人として認めてくれた日、逆に言えば彼らが学生ながら指導者として自らの非力さを認めた日であった。
 

                   (2)
 
 携帯電話の普及により、世の中本当に便利になった。
 野球に関することで、長男とのやりとりはもっぱら携帯電話によるものであったが、次男とのやりとりはもっぱら携帯メールが用いられた。
 
 メールの利用に関しては危惧を抱いている。というのは、メールはどうもカンが鈍るような気がしてならないのである。
 会話は、相手の表情を見ながら反応を確かめることができる。
 それに対し、メールでは相手の気持ちの読み取りなどの感性が培われないような気がするのである。連絡や報告するには最高であるが…。
 
 想いをメールで伝えるためにはラブレターと同じで、本気で打ち込まなければならない。そんな気持ちならメールでも感性は養われるはずである。想いを短い文で伝えるということは、送る側にとっても、受ける側にとっても真意を読み取るためには結構がんばらなければならないからである。
 

                   (3)
 
 例えば品田直宏、例えば斉藤仁志、例えば吉永一行、例えば矢代雄紀、例えば某高校生、例えば・・・。試合の前後に限らず、どれだけ互いの想いを伝え合ってきたことであろう。ホームページに載せたいことがたくさんあった。が、なるべく控えてきた。
 
 いただいたメールを漠然とでよいからポイントとし、ポイントを線で結びイメージを膨らませると、その選手の調子がわかる。
 それだけでない。メールは人間が浮き彫りにされる。

 指導者からいただくメールでは、時として言い訳ばかりの内容があり、うんざりする。そんなときには返信する手が動かない。
 それに比べ、私の周りの若者は純粋なメールを打つ。
 そんなとき、彼らの素晴らしさに気づく。
 
 他人のメールの公表はできるだけ差し控えてきたつもりだが、身内ならと思い、今回は私と倅とのメールのやりとり、すなわち“想いを文字で伝えたこと”の一部を紹介することにした。ただし、倅には断りしていない。
 「親父〜」と笑いながら、許してもらえるだろう。
 

                   (4)
 
 野球少年の長男を見て育った次男も野球を生涯前期のスポーツに選んだ。三好小学校時代は地元では目立った野球小僧、田沼西中学校時代は溌剌とした野球少年であった。佐野高校時代は通算136試合で打率4割2分、本塁打6(3年次の安佐大会で優勝した際、3試合での通算打率10割)の戦績で高校野球を終え、慶応大学法学部政治学科に進学し、同時に野球部に入部した。
 大学入学後は2年次新人チーム主将、3年次の春のオープン戦で代打8のうち安打5、打点6を記録するもベンチ入りならず。秋のリーグ戦終了後、自分がチームのために最も貢献できるであろうこととしてヘッドコーチを選び、就任した。
 しかし、私の眼から見ると、長男には指導力はあるが、次男はフィールドに立ちプレイヤーとして仲間に影響を与えながらチームに貢献するタイプと映っていたので、ヘッドコーチ就任は嬉しい反面、心配でもあった。


 以下、4年秋のリーグ戦前から終了までのメールを抜粋したものである。

 (原文に忠実に再現したが、誤字・脱字は訂正した。Y:私、T:倅である。)


【平成16年8月12日・秋のリーグ戦の日程が発表される】

Y: 勝ち点5で創部1000勝に到達するということは完全優勝しなければならないな。オープン戦の結果はインターネットを見てわかっているが、調子はどうだい?

T: 目安は立たない。秋のリーグ戦で勝てるかどうかは全くわからなく、毎日が不安だよ。でも、練習は充実しているし、やり残しだけは無いようにしたいね。
 リーグ戦が始まるころには、もう少し自信を持って臨みたい。リーグ戦の持つ独特の雰囲気の中で力を発揮するために、今何をしておくかが大切だ。ゆとりを持ちつつチームの課題をクリアーしていくよ。
Y: やる前に調子がよいとか、不安がないとかいうようなチームは本番でつぶれるよ。調子は心が支配する。最後の最後に調子が上がり、納得できる試合ができればよい。
 失敗が多い方が、目安は立ってくるものだ。

T: ありがとう。今できることを少しずつやっていくよ。他の大学で何がおころうが、一日一日を大切にやっていくということは変わらない。春の悔しかった気持ちは必ず返したい。


【平成16年9月20日・秋のリーグ戦開幕・対東京大学1回戦後(勝利)】

 開幕戦には青戸慎司君(中京大学)も激励に駆けつけてくれた。大勝。
 法立戦は法政が勝つ。このことにより、立教が落ちていくかもしれないが、窮鼠猫をかむことにならなければよいと感じ、そのことについて試合終了後直接話をしておいた。


Y: 立教は投手が仕上がっていない。法政は気力が充実している。立教が負けたことにより、立教内部には焦りが、勝った法政には色気がでるなど、それぞれリーグ戦開始前とはチーム内に集団心理変化が見られてくると思う。
 それゆえ、自然体でやらなければ悪い方に向きます。慶応は最後まで当初の目標のまま進んでいくためには、高広のコーディネートが必要なことは言うまでもないし、高広の一言がチームの流れを支配するから気をつけるように。
 今後はスタンドから慶應のプレイヤーはもちろん、ベンチ外の部員の心の動きも彼らの態度から探し、慶應のチーム力を推察することも楽しみの一つとして観戦します。

T: 俺も立法戦を見ていて、勝つことに対する気持ちの違いを感じたよ。今日の法政から、勝利に対する強い気迫を感じる。
 今慶応にできることは、毎日を大切に過ごし、日々成長し、自分たちの力をできるだけ多く発揮することだ。
 春は優勝を意識しすぎて固くなった。秋は自分たちの野球をすること。自分らしくプレーし、最高のパフォーマンスができるようサポートしていくよ。もちろん部員全員が勝利を喜び、敗北を悔しがれるチーム作りに全力を尽くす。いつでも成長し続ける慶応をお見せします。


【平成16年9月25日・対立教大学1回戦後(引き分け)】  

Y: 悔しいけれどこれが野球です。そして人生です。ただし明日からやり直しはできるのです。
 立教だってこれを落とせば事実上リーグ戦が終わってしまうのだから必死だよ。
 勝ちゲームを落としたと思ってはいけない。私に言わせれば負けゲーム。延長12回の守りで、間がとれていない。そんな時には高広が投手や捕手に指示しなければ駄目だよ。「牽制を入れろ」とか、「リサインで回して間を取れ」とかね。
 勝負は勢いがある方が勝つだろうが、勢いとはしゃぎは似て非なるものです。それが12回の攻防ではなかったかな。勢いを作ることは必要だが、はしゃぎは油断につながります。明日からの人生に役立ててください。

T: そうか、それは確かに油断だったね。こういうことを考えさせるきっかけを作ってくれた立教に感謝します。
 負けそうなところを何度も粘れたので、12回は勝つことに焦ってしまったのかもしれない。今までの野球人生でこんな壮絶な試合は始めてだね。
 俺に何ができるのか、ここで成長するよ。明日は一回り成長した自分を表現できるようがんばるよ。
 とにかく、野球の本当のおもしろさを楽しまなければね。 
 

【平成16年9月26日・対立教大学2回戦後(敗北)】  
 
Y: ただ切り替え。それを実践することは連勝することよりも難しいかもしれないが、とにかく切り替え。
  練習の目的は体力や技術の向上だけではない。難しい課題を解決していく心を養うというテーマもあったはず。
 明日は仕事で行けないが、心をおだやかに、氣を高めれば全て見えてくる。
 そのような状態にして、やりたいこと、思ったことをやってください。

T: 今はかなり苦しいね。でも、この苦しみに立ち向かって乗り越えれば、パワーが発揮できるんだよな。みんなが少しでも多くのパワーを発揮できるように全力を尽くすよ。
 このような状況を打ち破るために俺がいるんだと思う。俺は野球を教えるためじゃなく、精神力を引き出すためにいるのだと本気で思っている。
 明日こそ慶應らしい試合を!俺の氣を感じてくれ!


【平成16年9月27日・延期になった対立教大学3回戦を前に】  
 
Y: 立教の内在力を引き出したのが慶應、だから明日は立教から慶應の内在力を引き出してもらえるようになっているのが世の常だ。つまり、大丈夫、負けない、ということ。とにかく淡々と戦うこと。必ず高広が皆の潜在力を引き出すことになるから。
 仮に昨日勝ったら苦しみが和らいだと思うかい?それこそ油断ではないか。
 人間は全力を出し切ったなんて思っても、ほとんど脳内で自己制御し、内在する力の数%しか出していない。慶應が立教に内在するパワーを発揮する方法を2日間かけて教えてやったのだ。つまり、そのことは慶應の内在するパワーを発揮するための序章にすぎないのだ。
 苦しいのは生きている証拠だ。心が苦しいということは人として生きているからだ。このような過程でこそ、信じられないようなパワーが引き出せるのだ。
 互いにこのような状況を作り出し、人として内在する力を引き出し合うのも重要なスポーツマンシップの一つである。だからこそ相手を称えることができるのだ。

T:  今日の親父のメールを見て、春のリーグ戦で親父に言われ、一番大事にしていたことを思い出した。
  熱心冷頭でバードアイビュウとフォーカスを!常に客観的に、そしてクールに戦況を観て、熱いハートで盛り立てていこうと思う。
  まずはいつも通り普通に過ごすこと。そして明日を楽しむこと。
  ありがとう。おやすみ。 


【平成16年9月28日・対立教大学3回戦後(勝利)】
  
Y: 速報を見た。考えは変えるなよ。

T: 親父に昔から教わってきたことを実行するのみ。
   勝ちに負けるな、負けに負けるな!
   明日が一番大事。今日という一日も、いつも通り丁寧に過ごすよ。
 
  対立教1回戦は延長12回同点引き分け、2回戦は大敗、3回戦は9回の大逆転で勝利し、1勝1敗1分けになる。
   この後、天候不順で決着をつけるにもつけられず、優勝争いがもつれる要因となる。  



【平成16年9月29日・対立教大学4回戦中止決定の報を受け】

Y: 勝利の女神も、あまりの好勝負にまだ判断がくだせないようです。
  でも、勝利の女神は試合だけを見ているわけではありません。高広がバードアイビューの目で見ていても、更に上から鳥の目となって見ています。
  何がおきても変わらぬ心でいられるよう覚悟を決め、闘志の炎をちょっぴり絞って、それを維持しなさい。

T: 本当に互角なんだと思う。次の試合は月曜か火曜になるが、ここからの数日を大切に過ごせた方に勝利の女神が微笑んでくれると信じて過ごすよ。
  神様は俺たちに強くなるチャンスを何度もくれるね。今できることを精一杯やり、勝ちたい気持ちを最大限高めて試合に臨みたいね。


【平成16年10月5日・再び対立教大学4回戦中止決定の報を受け】

T: 今日は練習が休みになったので、みんなゆっくり過ごしているよ。気候の変化もあるから体調管理にも気をつけないとね。
  とにかく、心も体もベストの状態で法政戦をむかえられるようがんばります。 

Y: これからは、身体のつらさや、先のことを考えたチームが落ちていくね。
  こんな時は身体のケアが大切です。面倒でも時間をかけてダウンして、消化の良いモノを食べて、ゆっくり休むことです。こんなことはやろうと思っていても、緊張下では意外とできないことなのです。
 簡単に思えることかもしれないが、こんなことが後になって役にたつのです。
  ところで、法政戦を前に再度頭の中を整理しておきなさい。
  学生スポーツは意気に感じてやるモノであり、義理や打算でやるモノではない、ということを。
 

【平成16年10月10日・対法政大学1回戦を前に】

 試合前にスタンドで会い、私が佐野高校指導中県内総合29連勝をしていた間身につけていた純金のペンダントを渡した。(鷲が木の上から地上を見ているデザインで重さは50g。まさしくバードアイビューである。)
 また、「覚悟(落ち着き)は臍の下」「リラックスは胸の真ん中」「闘志は眼と眼の間」を押さえバランス良く集中するようにと話した。  

 

【平成16年10月10日・対法政大学1回戦後(勝利)】
 

T: ネックレスありがとう。しっかりと気持ちを臍の下に落ち着けることができました。
  明日も、闘志と気持ちよさと落ち着きのバランスを整えられるようがんばります。
  明日の試合までの数時間を大切に過ごすことを心がけます。それが今できることであると思うし、今できることだけを精一杯やります。

Y: 他人から見れば何とか逃げ切ったように映るでしょうが、勢いは慶應にあるようです。守りきれることや、ホームランをソロで押さえられるということも勢いなのです。
 先を見ると言うことは、今を見るということ。一瞬一瞬の積み重ねが全ての結果になっていきます。
 明日は仕事で上京できないが、「鳥瞰御守」が氣を出してくれるはずです。
  

【平成16年10月11日・対法政大学2回戦後(勝利・勝ち点2)】
 
Y: 本当に強いチームは、難敵を破った後の、比較的組みやすいと言われる相手にも全力を尽くし、確実に押さえ込むようだ。つまり、大切なのは難敵をクリアした後だ、ということなんだ。
 そのためにも、どのような気持ちで毎日を過ごせるか、節制とリラックスを同居させ、いつでも力を出せるといった生活を送ることだ。
  グラゥンドで強いチームはグラゥンド外ではもっと強いのだ!

T: やっと優勝争いの土俵に立てたことを素直に喜んで、しかし、次の試合が大切だと言うことを噛み締めて生活するよ。ありがとう。


【平成16年10月16日・対明治大学1回戦後(敗北)】

Y: 火山は噴火前には我慢に我慢を重ねエネルギーを蓄える。今日はそんな日と思い、余分なエネルギーは使うな!特に、監督や仲間との関係がマイナス方向に進まぬように。
 慶應の戦いはまだ半分まで行っていないことを認識せよ。
 大丈夫だ、やれるよ。そのための貴重な一日だったのだ。

T: 優勝するに足るチームに成長する一日を与えてもらったと思って感謝するよ。今日爆発することができなかったパワーを全て出せるよう頑張るよ。
 今日のうちに氣を臍の下に落ち着けておきます。

 今シーズン不調の明治に、まさかの敗北をくらう。
 この日明治が箱根駅伝の出場権を獲得する。この日は明治の日だったのか、と思う。
  しかし、夜になって一転する。
 新里と飲みながら見ていた日本シリーズで、川上憲伸(明治OB)が打たれ中日が敗れたのである。明治の一日に終止符が打たれたと、氣の流れをはっきりと感じた。

 

【平成16年10月17日・対明治大学2回戦後(勝利)】
  
Y: 野球がおもしろくて、終わっても野球がしたくてうずうずしていることだろう。そのエネルギーをチーム全員がいつでも、いつまでも持ち続けられれば、すごいエネルギーを出せるよ!

T: 了解です!


【平成16年10月18日・対明治大学3回戦後(勝利・勝ち点3)】

Y: いよいよ着地点がうっすらと見えてきたのではないかな。勝ち負けは結果だ。これからは、勝つことを考えるより、レベルの高い野球を残り3戦で完成させなさい!レベルの高い野球とは完璧な試合ではない。完璧な試合をしてしまうと一日で終わってしまう。ミスは必ずある。そのミスを引きずらない、感じさせない。そういう意味でのレベルの高い野球を造りあげ見せて欲しい。
 秋のシーズンが始まる前に言った「最後に最高の調子になればよい」の意味がわかりかけてきたことと思う。身体がきつくても、心の調子を最高にすること。つまり、落ち着き(覚悟)とリラックスと闘志のバランスをとることだ。そして、天気や相手の様子に心を動かされないようにすることだ。
 勝利の女神に祈りなさい。
 「チームの勝利のために、どうぞ私をお使いください」と。

T:
 今できることを精一杯やろうと思います。ミスがでようと、点を取られようと、その場でできることを精一杯やり続けることが結果に結びつくのではないかと思う。それが、俺の目指してきた慶應らしい野球だと思う。
 完璧な試合なんていらないということもよくわかる。だから、今この瞬間を大切に生きたいと思う。
 落ち着きを臍の下に、リラックスを胸に、闘志を眼の合間に、何事にも動じない強い心を作れるよう努力します。
 女神には親父の言っていたことと共に、「このチームの戦い方を最後まで見ていてください」とお願いしておきます。


【平成16年10月27日・対立教大学4回戦後(敗北)】
 
 延びに延びていた立教戦で勝ち点を落とし、優勝するためには慶早戦で2連勝するしかなくなった。

Y: 早稲田に対し、先に2回勝つか、2勝1敗で終わるか、どちらにせよ2回勝たねばならないことは慶應がやらなければならないことだ。
 むしろ、2連勝しなければ優勝はないということは、何とも言えぬ緊張感があって開き直りも出てくるのではないかと思う。今日勝っていると、かえって開き直りも生まれなかったかもしれない。
 慶應大学六大学通算1000勝は今のメンバーだけでやり遂げられるものではないが、2連勝しての今シーズンの優勝は今のメンバーにしかできないことだ。
 いよいよこれからだ!今日までは勝つための助走にすぎないのだ!
     
 今日も見ていていろいろあったが、以下の点に注意して早稲田に立ち向かえ!
 @ 采配について批判・中傷はするな。
 A 個人攻撃はするな。
 B やってきた練習に対して、悔いるような発言はするな。
 C 怒るな。
     
 過去と他人は変えられないが、自分と未来は変えられる!
 今日の結果は悔しいが、私としては2年前は立教を応援していたのだから、何とも言えない気分だ。
当たり前と言えば当たり前だが、今日の立教は消化試合をしていなかったようで、見ていて気分がよかった。
 これ以上ない緊張感の中で総合力を出し合って戦う慶早戦を楽しみにしています。
 
 試合終了後すぐにメールを打ったが、残念ながら見るタイミングが遅かったようである…。

T: すまん。俺は馬鹿だ。仲間を怒ってしまったし、個人を攻めてしまった。コーチとして最低のことをしてしまった。
 しかし、あと数十時間で何をどこまで変えられるかわからないが、今できることだけを精一杯やってみようと思う。
 俺たちの4年間をこのまま終わりにしたくない。
 全力で早稲田にぶつかって行くよ!

Y: やっちまったことは仕方ない。たぶん学生時代の俺でも今日は怒ったろうし、仲間を攻めたろう。
 でもなあ、今日までは「○○が勉強になりました」なんて言えるかもしれないが、この後の2戦は「○○が勉強になりました」なんて言えないんだ。

 もう一度覚悟を決めよ!攻めて攻めて、高広が嫌われようが、攻めたことでチームメートが「なにくそ」と思って活躍してくれれば、結果的には高広というヘッドコーチの勝ちなんだ。命がけとはそこまでやるものなんだ。
 反省しても悔いは残すなよ。
 

【平成16年10月31日・対早稲田大学1回戦前
  
Y: 現実問題として、学生は生活感がない。
  ただし、学生にしかできない、普通の学生生活とはかけ離れた、あることに打ち込んできたことに対する集大成がこれから始まる。これは楽しい試練である。
 何度も言うが、学生のスポーツは見栄や義理や打算でやるモノではない。一所懸命、一生懸命やってきた者どうしが魂の大きさを比べ合う場が試合なのである。
 そういうことをやってきた者の中でも、高広の魂が突出していたことは、スポーツに携わるプロの一人として見逃さないで来たつもりだ。
 今こそ「出せ、若人の底力」だ。
 
 今日はメールを送るのが遅くなったため、メールを見ているかどうか心配になり、スタンドから「見たか」と声をかけたら、頷いたのでホッとした。
 また、今日は家族全員で応援に駆けつけた。亡くなった東京の祖父と栃木の祖母の分もチケットを準備し、俗と思われようが、遺影を椅子において観戦してもらった。

 

 
通常私は、勝負においては慎重で、石橋を叩くなら渡らない、石橋を叩いても渡らない、的な態度で臨むことが多い。しかし、今日ばかりは試合終了後明日の勝利を確信した。負ける要素は無い!と。
 応援指導部長(いわゆる応援団長)にお礼を延べ、傍にいた高広
を思わず抱きしめた


【平成16年11月1日・対早稲田大学2回戦前】

Y: 1973年10月28日、日本学生選手権最終日雨の千駄ヶ谷駅を降りた時、俺は覚悟を決めた。もう逃げられない、やるしかない、と。
 レースに向かう前、後輩に「これから教育大陸上部の肝っ玉を見せてくる」と言って出ていった。
 スタート地点に立つと、神宮球場から大歓声が聞こえていた。今思えばあれは早慶戦だったのだ。
 そして、4×400m決勝に4年生でただ一人出場し、奇跡と言われる優勝をすることができた。
 最高の学生生活であった。
 モノには必ず終わりがある。慶應の色を美しく塗って終わりにしよう。
 高広に贈る最後の言葉は、ソウルオリンピックの100mスタート前の選手に話した「明るく、ミスを恐れず、元気よく、いい顔で!」です。

T: 俺の最後の試合が最高の舞台で幸せだ。
  親父ありがとう。最後の最後までしっかり見届けてくれ!応援してくれ!
  これから我々は最高の慶應義塾をお見せします。
    
 途中大差がついた。大差がついてから突然石橋を叩いても渡らない心が戻った。そのことをスタンドから伝えると、頷いてくれた。このとき、慶應の素晴らしさとともに、ヘッドコーチにしていただいたことに感謝した。
 私より、何年も早く勝負の深さがわかったのではないかとうれしくなり、球場が霞んだ。
 31年前は全てが終わるという感動で、泣きながら走ったことを思い出した。
 しかし、31年前も今日も、試合後は不思議と涙はなかった。

    
 学生スポーツで天皇杯がかかるのは、陸上の日本学生選手権と野球の東京六大学の2つと聞いたことがあるが定かではない。しかし、そんなことはどうでもよい。
 私は31年前東京教育大学で、長男は立教大学で、次男も天皇杯をいただくことができた。我が家にレプリカを3つ並べ、生涯誇りに思いたい。

   

【全日程終了】
     
Y: 長いことお疲れ様。「凛として颯爽と」戦ってこられたかな?
我が家も将司〜高広の野球で15年経ちました。長いようで短く、短いようで長い15年でした。
 しかし「たかが野球、されど野球、その中で本物を見る」ことができました。
これからも我が家は「凛として颯爽と」した態度で生きていこうと思います。
 しばらくゆっくり休んでください。お疲れ!
 
T: ありがとう。
   誰よりも素晴らしい4年間を過ごせたと思う。
   最高の仲間と過ごせて本当によかった。
   俺は最後まで俺らしく戦えたと思う。
   今までありがとう。これからもよろしくお願いします。
 

                  (5)
 
 次男の話をしているうちに、栃木県秋季高校野球がはじまり長男将司率いる矢板中央高校は、苦しみながらも決勝まで進みました。(残念ながら、準優勝に終わりました。)
 長男とのやりとりも少しだけ入れておきます。
 

【平成19年9月26日】

Y: 野球をやるのは人間。だから人間が良い方向に向かわなければダメ。
その点、矢板中央の選手は確実に変わっている。そんなふうにしている将司を誇りに思う。
 少なくともグラウンドでは佐野高校にはまけてない。作新戦も人間を育てるために本気でやる事の素晴らしさを教えてやる事です。
 結果的に無心になることが最高です。 
 
M: 大会に入り、一戦ごとにチームと各個人が成長している事を実感します。
 俺は今まで学んだ事だけを伝えているだけですが、その中で生徒からもいろいろと教えてもらい、良い方向へ向かっていると思います。次も同じように一生懸命やっていきます。
  
 
【平成19年10月3日】
Y: 選手を変えたかったら指導者が自分からです。私の体験では、ほとんどの指導者は大したことはない、自分を変えられないからです。プロ、社会人、大学、高校すべて同じで、極端な事を言えば素人中学監督を馬鹿にはできないのです。
 指導者は頭の調子を良くしておく事が最も大切だという事を忘れずに!
 
 これから勝ち負けに関係ない、本当に自分たちの野球が出来るか試されるのです。今までは跳躍競技でいう助走だったのです。生徒にリーダーがいないようなら将司がリーダーになればよい。
 これからは欲がからむから勝っても負けても現実に従えるような心を作っておく事も大切なことです。勝ち負けより目標にどこまでせまりえることができるか、というテーマで戦えれば野球が楽しくて仕方ない状態で球場に立てるでしょう。
 
M: 勝ち負けでスポーツをしてしまうと間違った方向に行ってしまう可能性が高いことは理解しているつもりです。スポーツ=勝ち欲だけでは良い人間にはなれません。今までやって来た方向に向かうことが野球の楽しさではないかと思っています。野球を通して関係している人間(自分を含めて)の人間力を高めていきたいと思います。

Y: それが正しい考え方です。そこを幹にし、枝葉を伸ばしてやる事です。そして根っこは何かを見つけ(これが最も大切)指導し、大きな木にしてやってください。


【平成19年10月6日・準決勝 対宇都宮商業戦(勝利)】
M: 今日は、4回終了時点では0対9で負けていましたが、最終的には11対9で勝ちました。
 生徒たちが素晴らしい試合をしてくれました。
  
  
 メールはこれからも続くでしょう。
 感メールのやりとりをしたいものです。


                   (6)
 
 勝負の世界は努力しなければ勝てない。しかし、努力しただけでも勝てない。
 勝ちたいと思うのは、勝負の世界では皆同じ。ごまかしは決してきかない。

 人生は不可思議である。自己支配できているようでも運命に支配される。
 宇宙に支配される運命は変えられないのはわかっている。しかし、努力はしなければならない。
 
 真摯に取り組むスポーツ活動は身体を鍛えることのみならず、真理を追い求める心を創り、豊かな感性や道徳心を育み、正義、責任、公共などの精神を涵養する。
 
 学生スポーツは自治と自由で行われるからこそ価値が高まる。
 そこで得たものは生涯の宝である。
 
 生涯の宝を何とか掴ませてやりたい。
 そんな想いが、このようなメールをしたためた大きな因である。
 親馬鹿なのである。
 それでもやらずにいられない。そんな親がいてもいい。
 それを見て頷く。そんな子がいてもいい。
 

                   (7)
 
 思いを文字で伝えることはむずかしいものです。
 長いことラブレターも書いてないし……。
 
 最近の若者はものすごいスピードでメールをうちます。メールも一応コンピュータですから、漢字も使えます。ただし、携帯メールでは誤字脱字は教えないから間違いに気付かないようです。気付かなければ恥を恥とも思わなくなります。それだけではありません。略語と絵文字のオンパレードで通用してしまいますから、気持ちの伝え方は早く、かつ(二人の間では)上手くなっているのではないかと錯覚します。
 
 しかし、メール上手が想いをうまく伝えているわけではありません。
 行間を読むことを迷惑がられるようでは、情緒が生まれるはずはありません。
 それにもまして問題なのは、携帯電話の普及により相手の眼を見て話しをし、相手の気持ちを知ることができなくなる、というよりも必要なくなることが怖いと思いませんか。

 「秋深き隣は何をする人ぞ」(芭蕉)には、深みのある想いを感じますが、「冷(すさ)まじき隣はメールうつ人ぞ」では洒落にもなりません。
 燗冷めの酒のように心を寒々とさせるようなメールは厳に慎みましょう。


                   (8)

 「心なき身にもあわれは知られけり 鴫(しぎ)立つ沢の秋の夕暮れ」(西行)のとおり、しみじみと昔を思い出し人生を感じる今、秋の味覚を肴に新酒で一献といきたいですね。

 とは言え、スポーツの秋はこれからです。国体は明日で終りますが、東京六大学野球はやっと折り返したばかりです。
 
 ところで今年の東京六大学野球、特に早稲田の試合日はひどいですね。何と対戦相手のベンチ上観客席に早稲田ファンが大勢集まり、えんじ色を身につけた老若男女が早稲田のプレイに一喜一憂するのです。彼らも料金を払っているので仕方ないとしても、世の中には常識というものがあるはずです。あの声を聞くと、頭に響き、耳に残りますよ、本当に。
 特に、早稲田の#16が投げない日がひどい。相手チームのダッグアウト上から早稲田ベンチがよく見えるから、ということらしいのですが。
 まさか慶早戦でこんなことがおきないことを願いながら、皆さん、秋日和の一日神宮球場に行ってみませんか。
 
 今年の慶應義塾の副主将に松橋克史君という選手がいます。彼は1年次からベンチ入りした選手ですが、腰の手術を2度するなどの試練を乗り越え慶應義塾を引っ張ってきた選手です。
 次男が間に入り腰のリハビリやトレーニング法の勉強に同僚を引き連れ何度も佐野に来て、JUVYのメンバーと一緒にトレーニングに励んでいます。   
 今リーグでも活躍を期待され、事実、立教戦ではいぶし銀の働きをしていました。
 しかし、練習中右手中指を剥離骨折、そして手術と再び試練と戦っています。
彼は今、何とか慶早戦に間に合うよう懸命の努力、特に心の努力をしているはずです。松橋君を見に行くだけでも十分に価値ある東京六大学野球です。ちなみに松橋君の背番号は#25です。
己と戦いながら、チームを盛り上げる努力を続ける松橋君を心から応援したいと思います。
 

 
結びに、慶應義塾の残り試合の健闘をお祈りします。
 


※10月8日現在、東京六大学野球秋季リーグ戦の順位は以下の通りです

   1位 早 稲 田 勝ち点3 6勝1敗1分 勝率.857 残り対戦相手 明・慶       
   1位 慶應義塾 勝ち点3 6勝1敗2分 勝率.857 残り対戦相手 法・早       
   3位 明   治 勝ち点2 4勝2敗2分 勝率.667 残り対戦相手 早・法        
   4位 法   政 勝ち点1 3勝4敗1分 勝率.429  残り対戦相手 慶・明   
   5位 立   教 勝ち点1 3勝6敗    勝率.333 残り対戦相手 東          
   6位 東   京 勝ち点0 0勝8敗    勝率.000 残り対戦相手 立         
 
       
Vol.1 JUVY 創 設
Vol.2 理想の指導者とは
Vol.3 素晴らしき指導者
Vol.4 回顧・2005年
Vol.5 新春は箱根と共に
Vol.6 凛として颯爽と
Vol.7 眼のつけどころ
Vol.8 視点・感点
Vol.9 思い出に残る一言
Vol.10 新たなる旅立
Vol.11 JUVY誕生
Vol.12 春のスポーツシーズン到来
Vol.13 指導者としての実践力とは
Vol.14 ジュニアとシニア・その1
Vol.15 ジュニアとシニア・その2
Vol.16 わたしなりに言いたいことを…
Vol.17 「眼に見えない力」
Vol.18 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その1」
Vol.19 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その2」
Vol.20 「トーナメント・有限と無限の交差点」
Vol.21 「定石とひらめき」
Vol.22「合同練習会」
Vol.23「国民体育大会」
Vol.24「心・技・体」
Vol.25「再興」
Vol.26「神在り月」
Vol.27「修行」
Vol.28「言霊」
Vol.29「夢」
Vol.30「影響力」
Vol.31「健康」
Vol.32「我家の凜氣」
Vol.33「食」
Vol.34「インカレ」
Vol.35「2007年 JUVY TC前期総括」
Vol.36「今日まで、そして明日から」
Vol.37「国体関ブロ観戦記」
Vol.38「想いを文字で伝えるということ」

Circle-JUVY General Manager OKUZAWA Yasuo