Vol.26(2006.11.22.)
【霜月・小雪】 「神在り月」
 
 
「神無月(かんなづき)」の由来は、神々が出雲へ集まり諸国から「神様が不在になる月」と言われるが、出雲では「神在り月(かみありづき)」とよばれている。新穀(しんこく)でお酒を醸(かも)すことから「醸成月(かみなんづき)」とする説もある。
                〔全国農業協同組合中央会「ごはん行事食と歳時記」より〕

 

 旧暦(太陰太陽暦)の神無月は10月であり、新暦(太陽暦)の11月にあたる。
 11月8日〜10日に公務で島根県松江市を訪れた。
 

 松江駅前には金沢・京都・松江の三都が並んで記されたポスターがあったが、街を歩くと確かに古都と感じられ、素晴らしい雰囲気である。最近出向く都市で感じてきた、街全体が何物かに追われているような焦りに近いモノが、この街には感じられない。
 観光を意識して整備を続けている街並みであることは容易に察しがつくが、そのことに嫌みがあるわけでもない。
 
 時間を見つけ「宍道湖遊覧」と「堀川めぐり」をした。いずれも船である。適度な揺れは思考力を刺激するのであろうか、宍道湖の大きさや城下町の雰囲気などが身中に入り込み、いわゆる歴史的、地理的なロマンや情緒とともにこの街で暮らす人々の等身の大きさを感じ取ることができた。決して気取った街ではない。3度乗ったタクシーの運転手も自らの土地の法螺を吹くわけでもなく卑下をするわけでもなく、ごく自然な振舞いと会話をしてくれた。
 さらには、松江に滞在しながらこの島根県という土地が神話の国・出雲であることを意識すると、歴史が深く息吹き、語り継がれ、その結果県民が古き良き文化を護ろうとしていることが想像されると同時に、その歴史の長さを俯瞰できずにいる自分を発見した。
 
 栃木は東京に近いことから、文化の理想が東京発信のものになりがちであり、新しいモノが好まれるようである。それどころか、若者にいたっては古いモノは文化として認めないような風潮がないわけではなく、県全体がリトルトキオになっているのではないか、と、再考せざるをえなかった。
 
 東京から遠く離れた処には、(そこがどれほど魅力的な処であろうとも)万人が一生のうち何度も行けるわけではない。私などは、インターハイや国体あるいは合宿等に参加させていただいたため、大分県を除いて国内は全県滞在している。そのようなことから、それぞれの土地を訪れていただいたものを、自らの感性の一部として備蓄することができたと思っていた。
 しかし、今回三度目の島根県訪問で自分の思い上がりに対し反省しなければならないことに気付いた。歳をとって良かったと思うのはこんな時である。

 
 【雑記・その1】
 東京からはるか離れた、萩の松本村や鹿児島城下の加治屋町から幕末〜明治の偉人が誕生した。島根も例外ではなく、松江雑賀町から多くの偉人が輩出されたという。このような土地に共通して言えることとして、「地域が一体となって人を育む風土がある」ということなのであろう。日本のクーベルタンと言われている、岸清一氏(※1)も松江雑賀町の小さな町の出身であることをうかがった。
 そのようなことに思いを巡らせているうち、総合型地域スポーツクラブなどは別段新しいことなどではなく、大人が当たり前のように、しかも心の温度を高く保ちながら展開していかなければ、子どもたちへの影響はないのではないかというような思いが走り、いてもたってもいられなくなった。
 
※1  明治・大正・昭和にわたり、わが国法曹界の第一人者として活躍される一方、日本体育協会会長、第8回オリンピック(パリ)日本選手団団長、国際オリンピック委員会委員として、日本スポーツ界の発展とその国際的地位の向上に半生を捧げた。
  日本のスポーツ界の拠点といえる「岸記念体育館」は、氏の遺志によって建設されたものである。


 

 【雑記・その2】
 地産地消と騒がれてはいるが、果たして栃木の一般的な飲み屋でそのような運動がどこまで浸透しているだろうか。
 松江では一見で入った居酒屋にも地元産の肴が多種おいてあった。一般的には地のモノは口に合わないモノが多いと言われるが、島根の地物に限ってはこれが全て、まさしく美味なのである。私は酒の肴に魚の刺身をほとんど食することはないのだが、“喉黒(のどぐろ)の刺身”には完敗した。また、果物のイチジクが調理次第では酒の肴として鎮座可能なことも知った。もちろん、日本酒も私が飲んだ限りでは不味い銘柄はなかった。
 島根県民は本気で地産地消に取り組んでいるようである。

 
 閑話休題。
 このような体験から学んだことが、私にとって今後眼に見えない力となるならば、栃木の神が神無月に私を一緒に出雲に連れてきてくれたのではないかと思えた。
 
 出雲を訪れたことで自己発見できたことがある。
 自己発見とは自分で到達できた一種の「悟り」のようなものであろうが、実は「神からのあずかりもの」なのではなかろうか。
 今回の旅で発見できた自分の内面は、見知らぬ街を訪れて感じることが変化してきているということと、見ることが観ることになり、五感で感じたことを早めに処理し六番目の感として出し入れすることできるようになってきている、ことであった。

 
 ところで、私の用務は「全国学校保健研究大会」という会議に参加することであった。この大会は、近年の子どもたちを取り巻く社会や環境の変化が健康・体力などに与える影響を懸念し、学校教育で多くの課題を解決するための方策を研究協議していくものである。
 後日、当エッセイにも“健康教育”について書くつもりではいるが、“子どもが自ら健康課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に行動し、自ら評価できるような、たくましく「生きる力」を育む”、ということを忘れている大人が多くなっているような気がする。
 
 JUVYでは「子どもは未来からの留学生」であるとの認識をもってジュニア会員に接しているが、決して過保護に育てる気持ちはない。我々は子どもたちを育むにあたって「自主独立・剛健不屈」を大切にしてきたはずである。
 今大会では「子どもが危ない!」との演題で、清川輝基氏(※2)が講演され、「子どもが危ないということは国の未来が危ないのである!」と力説されていたが、まさしくその通りであると思った。
 
※2 元NHK社会情報番組ディレクターとして「新日本紀行」「ニュースセンター9時」などを担当。
 現在、NPO子どもメディア代表理事。長野県 さくら国際高等学校校長

 

 今回のテーマとは一見関係ないようであるが、講演を聞いた中から、読者の皆様に是非とも伝えたい内容を紹介することで今回の稿を閉じたい。(◆は筆者感想等)
 
○ 体力の低下について
・ メディア漬けの世の中で、身体を使う時間を確保することは不可能
 → 身体を使うためには足を使う。足の発達なくして全身の筋肉の発達はない。30年前の子どもに比べ、現在の子どもは約2.6%重心が後方にある。
 → これは、足裏の筋肉の発達が悪く、足裏をうまく使えないことが原因ではないか。

◆ 踵から接地するハイニードリルを行うと足裏を使って走ることができる選手の見極めが簡単できる。足裏は複雑なアーチを描いているが、基本的には“半円筒の上を進むが如く”が良いと考える。ほとんどの選手が足裏に鉄板を履いている。


○ 国が推奨する「早寝早起き朝ご飯」運動について
・メディア漬けの世の中で、この運動を成立させることは不可能。
 → 今の日本でこの運動を展開しているのは少年鑑別所くらいではないか。 
 
◆ 大学生の競技力低下の要因として「JGMの四季の風(Vol.16)」に掲載した。

 
○ 話す力の低下について
・ メールのやり取りで育った子どもたちには、話すという能力は身に付かない

◆ 話せるということは、相手が理解できる内容で話せるということである。指導者は、相手の立場に立って話し合いができなければならない。

 
○ 立体視力について
・平面的な画像を見ているだけでは感性は生まれない。

◆ VTRを駆使しての指導はしたくない。100分の1秒、1000分の1秒の間で見極めることが指導者の力量ではないか。


○ No!メディア生活について
・ 我が国の特徴として、やり方だけを教えて中身を確認しないということが多い。何らかの形で実践し、その実効性を検証していく必要がある。
 → 実践者の言葉では「会話」「新聞」「学習」「読書」「気分良好」などのキーワードが確認された。

◆ JUVY T C主催の作原合宿は「自炊」「TVなし」「携帯圏外」による三つの非日常生活の中で行われている。この中に「会話」「新聞」「読書」「健康観」などを意識的に加えた指導法を確立したい。
 

 このような言葉に出会え、今後の指導のための示唆を得たということは、出雲の旧暦十月はやはり神在月だったのか、と考えるのは不自然なことであろうか。
 
 中一週で越前に行きます。今度は、何が発見できるか楽しみです。
 
Vol.1 JUVY 創 設
Vol.2 理想の指導者とは
Vol.3 素晴らしき指導者
Vol.4 回顧・2005年
Vol.5 新春は箱根と共に
Vol.6 凛として颯爽と
Vol.7 眼のつけどころ
Vol.8 視点・感点
Vol.9 思い出に残る一言
Vol.10 新たなる旅立
Vol.11 JUVY誕生
Vol.12 春のスポーツシーズン到来
Vol.13 指導者としての実践力とは
Vol.14 ジュニアとシニア・その1
Vol.15 ジュニアとシニア・その2
Vol.16 わたしなりに言いたいことを…
Vol.17 「眼に見えない力」
Vol.18 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その1」
Vol.19 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その2」
Vol.20 「トーナメント・有限と無限の交差点」
Vol.21 「定石とひらめき」
Vol.22「合同練習会」
Vol.23「国民体育大会」
Vol.24「心・技・体」
Vol.25「再興」
Vol.26「神在り月」

Circle-JUVY General Manager OKUZAWA Yasuo

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