Vol.24(2006.10.23)
【神無月・霜降】 「心・技・体」
 
                    (1)

 「JGMからの四季の風」を二十四節気(※1)の歴に合わせて掲載してから今回で1周り、1年が立ちます。
  早いものです。JUVYとして、この一年間で何ができたのか検証しておかなければなりません。
 
 (※1)【二十四節気】
  古代中国で使用されていたもので、天球上の太陽の通り道である黄道の春分点を基準に1年を24等分し、季節の変わり目をあらわしたもの。毎年同じ時期に同じ季節がやってくるため農作業の目安とされた。
 

 人間は季節の移り変わりを敏感にとらえ、体験を学びの材料として成長してきたはずです。 しかし、近年、科学という名の知識を追い求めすぎるとともに、過去の体験を学びの材料とすることを否定するためか、本来、「験智」(※2)と「学知」(※3)で生まれるはずの「霊感」も生まれてこなくなったのではないか、と思える歳になってきました。

 (※2)【験智】
      体験や経験から学んだ智恵。奥澤の造語です。
 (※3)【学知】
      学問を通して得た知識。奥澤の造語です



                    (2)
 
 我が国の競技力向上は学校教育の一環としての「運動部活動」が多大な影響を与えてきました。
 
 そのようなことを十分に理解しているJUVYとしては、学校における運動部活動との共生を考えながら活動しているつもりですが、運動部活動の邪魔をしているのではないかと、誹謗・中傷する輩がいることは誠に残念であります。このような発想をする者には「験智」や「学知」を基にした教育活動をしているとは思えません。

  しかし、ここは発想を切り替え、そのような批判をありがたいことと思いながら自分を省みるチャンスと考えています。スポーツ活動も人々の生活を豊かにするための手段である限り、視野を広く持たなければ、社会という大きな器の中で生きていけないことを再確認させていただきました。これも験智の一つになるものと考えています。
 
 冒頭に書きましたが、今回は二十四節季の最終回となるということから次の段階に進む前に、魅力あるスポーツ活動の展開について「私見、心・技・体」について書いてみようと思います。


                    (3)
 
 Meinl,K.はスポーツ活動の持つ主な役割と意義を以下のように述べています。
@ 人間形成としての教育的機能
A 競技力向上としての機能
B レクリエーション的な機能
C 健康の保持増進や体力向上としての機能
D 心身のリフレッシュ機能

 筑波大学名誉教授西藤宏司先生は学校におけるスポーツ活動としての運動部活動を専門的教育の場と捉え、「子どもたちに内在する主体的能力を、意図的・計画的・組織的に引き出し、人生の方向性を培うための一助となる。」と述べています。
 
 広義に考えれば、Meinlの述べる内容とリンクする部分があることに興味が持たれます。
 
 そこで、Meinlや西藤先生の考えを基に冬のトレーニング計画を検討する際のたたき台として、「スポーツ活動における心・技・体」について、【Q】&【A】形式で進めてみます。


                    (4)

【Q】
  スポーツ選手から、「気持ちで打った」とか「心で走った」などということを聞くことがあるが、スポーツにおける「心」をどのようにとらえ、どのように指導したら良いか?
【A】
  故・中村清氏(元・早稲田大学競走部、ヱスビー食品陸上部監督)は「心で走る」ことを強調したが、「心」について十分納得してもらえるように説明することは難しい。「心」とは極めて抽象的な概念であり、それを掴むこともまた難しい。

 「心」とは人間の精神作用そのものであり、まさしく「見えない力」の代表的なものであり、いわゆる「見えない力」の発揮が、勝敗の分かれ目になることが多い。 

 ちなみに広辞苑では、「心」について、「知識」「感情」「意志」「気持」「思いやり」「情(なさけ)」「情趣を理解する感性」「望み」「志(こころざし)」「特別な考え」などとあるが、これらを複合させた心理状況での活動が「気持ちで打った」とか「心で走った」と言わせているものと思われる。

 「心」の指導は「今役立つ考え」「明日役立つ考え」「1ヶ月後に役立つ考え」「1年後に役立つ考え」「5年後に役立つ考え」「10年後に役立つ考え」・・・・を場に応じて理解させ「いつの世にも共通して役立つ考え」を育み、自ら、人として正しく行動できる人間を育成することではないかと考えている。


【Q】
  「心」が精神機能とするならば、「心は脳」と考えて良いか?
【A】
  人類史上1マイル競走で初めて4分を切ったイギリスの医師ロジャー・ バニスター選手は、「私は心臓や肺ではなく、脳で走った。」と言っている。
 このことは、レース中最後まで集中を切らさないで走ることやトレーニングの組み立て、トレーニング中の目的意識、トレーニングの目指す方向性など、いわゆる「脳パワー」を発揮することが大切である、と言ったものと推測している。
 
 脳パワーの開発こそ、トレーニング効果を高めるための大きな要素であると考えている。


【Q】
  「心」という精神機能と競技力向上はどのような関係にあると考えるか?
【A】
 前問の回答に近いものがあるが、競技力向上は体力や技術の向上、すなわち眼に見えるものが取りざたされるが、体力や技術を開発したり発揮したりする際は精神機能が大きく係わっている。特に、強い意欲が強い意志を生み、活動を能動的にするものである。
 
 自分のやるべき事を明確にし、やるべきことは自己責任として実践していくと新たな理想が生まれるが、このようなスパイラル的な考えと実践が競技力向上に役立つものと信じている。

 競技力向上は人間としての総合力の向上に関係すると考えている。


【Q】
  「技術練習」を行う際の留意点は?
【A】
 技術練習は個の運動体験にもよるが、大きく3つに分けて考えたい。

 @ 今までやってきたこと(普段の生活で何気なくやってきたこと)を、より 効果的にできるようにする練習
  (例)より速く走ることができるようになるためのスプリントドリルなど

 A 今までやったことのないこと(普段の生活の中にないこと)を新たに習 得していくような練習
  (例)円盤投やハンマー投のターン練習など 

 B @及びAの複合的な練習
  (例)三段跳の練習など 
    
 上記のように技術練習を区別して行うが、いずれの場合も、技術練習は目指す目標に迫り得るものでなければならない。


【Q】
  「技術練習」を行う際の目的の一つとして「動きのコツ」があると考えられるが、その留意点は?
【A】
 運動時における動きのコツには、「コツの獲得」と「コツの伝承」に分けて考える必要がある。前者は競技者、後者は指導者にかかわることであるが、それぞれの留意点は以下の通りである。

@競技者(コツの獲得)
 ・〔感 覚〕 自己の動きに対し客観視できる能力を高める。
 
 ・〔レベル〕 自己のレベルに応じた自己課題を設定しそれを解決する能力を高める。
 
 ・〔意 欲〕 師範者や上級者の動きを観察する能力を高める。
 
 ・〔情 報〕 自己修正に必要な情報を収集する能力を高める。

A指導者(コツの伝承)
 ・〔自体験〕
 コツの獲得は運動体験に負うことが大きい。幼少時からの自己の運動体験を引き出すことは勿論のこと、指導者自らが試しによるコツの獲得をした上で、伝承することも必要である。

  ・〔表現力〕
 「がんばれ」とか「集中して」などの抽象的なアドバイスは動きのコツの獲得に直接には役に立たないことが多い。
  動きのコツを伝える言葉の工夫は極めて大切であることから、指導者は表現力を高める努力をすることが大切である。

 ・〔個体差〕
 指導者のイメージや自己体験だけからの、一律な練習は全員にあてはまるとは限らない。当てはまらない選手にとっては練習そのものが苦痛以外の何物でもなく、動きのコツ獲得への意欲が薄れることもある。人間は個体差があることを理解する必要がある。

 ・〔共 感〕
 指導者は、動きのコツをつかめない競技者の悩みや苦しみを理解し、感性を高め「共通のチャンネルでの電波のやりと り」をもって解決する努力が必要である。


【Q】
  スポーツ活動における体力と健康の関係は?
【A】
 表現は良くないが、歯を食いしばり限界まで行うスポーツ活動も基本は健康である。健康の保持増進に資するものは望ましい生活習慣である。
 
 特に、食や休養を中心とした生活習慣に目を向け、指導者はもとより仲間や保護者とともに考え、望ましい生活習慣を自ら確立することから意志力や意欲も高まり、その結果、体力の向上も図られ、結果競技力が向上することが多いと考える。


【Q】
 各種体力要素を高める目的にはどのようなものがあるか?
【A】
@ 競技力開発のため
 スポーツ活動においては、体力が競技結果に与える影響が大きいことはスポーツに携わる方なら承知のことである。
 
 スポーツの中でも、特に陸上競技は体力要素を高めることが、記録の優劣になって現れることが多い。
 
 発育・発達の状況にもよるが、特定のスポーツに専門化されてくると、基礎体力の開発に加え、専門的体力の開発が重要になってくる。各種体力要素を分析し、独自のコントロールテストを継続的に実施し、個々の各種体力要素を掌握をすることは大切なことで、貴重なデータとなるので、研究を進める必要がある。

A 技術を効果的に引き出すため
 スポーツ活動中に当事者がやろうとしてもできないことがあると、指導者は体力だけの問題として解決を図ろうとすることが多い。技術と体力は効果的にスポーツ活動を進める上で眼に見えるものの代表的なものである。指導者としては当事者がやろうとしてもできない場面に直面したら体力・技術の両面を同時に見直す必要がある。技術と体力は一体化されて動きを作り出し、その結果が競技成績に影響を及ぼすからである。
 当然、体力を高める運動に重きをおく場合でも、体力を高める運動そのものの技術性を高めることも極めて重要である。

B 技術を定着させるための繰り返しの練習を効果的にするため
 技術定着のための練習は長時間になることが多いので、基礎的持久力をベースにした専門的体力を高めておくことが大切である。
 
 しかし、反復練習は、時として見かけだけの練習に終始することがあるので、自ら目的意識を持ちながら練習が出来るよう、精神の持久性を高めておくことも大切である。


【Q】
  体力トレーニングはどのような考えでやるものか?
【A】
  体力トレーニングは、(時として本人の意志に関係なく)結果的に体力が向上している場合がある。目的意識を持たない(持たせない)ハードな練習や「しごき」と言われる特訓などはこれにあたる。
 
  しかし、このようなトレーニングは、健康への悪影響、受け身の練習による主体性の欠如、指導者との信頼関係の崩壊、スポーツ嫌い〜生涯にわたる豊かなスポーツライフへの否定的態度など、多くの悪影響が現れる。
 体力トレーニングはゲームなどとは違いルールがないわけであるから、体力トレーニングを行う際には約束事を作ると効果が高まる。約束事は目的意識を高めるようなものを、指導者が工夫して与えることが良い。

 体力トレーニングは「いつ・何をやる」といったレベルから「なぜやる・いつやる・何をやる・どのようにやる」といったレベルに引き上げ、「目的・時期・内容・方法」を意図的・計画的に(団体種目は組織的にも加え)実践していくことが大切である。


                    (5)

  「名伯楽」とは【馬の善し悪しを見つける人、転じて人物を見抜く眼力ある人】(広辞苑)とあります。
  一方、「名選手必ずしも名コーチにあらず」とは、指導者が自分の体験を伝承するだけでは、選手が育つとは限らないことを言ったものでありましょう。
  上記の2例中に指導者の条件として必要とされる「眼力」や「伝承」といったキーワードが見え隠れしています。それらに、「実践」「研究」から生まれた「理論」などを加えると、指導者としてやらなければならないことが浮かび上がります。

  競技者は「遺伝」「環境」「生活習慣の中に位置づけた練習」の重なりにより、競技力が決定されるような気がしています。

  我々指導者が競技者に対してできることは環境整備や練習計画の支援ではないでしょうか。無限にある「環境条件」と「練習方法」を整理するためにも、「験智」と「学知」を膨らませていきたいものです。

  今回の結びです。

  「先人や師匠から御預かりした眼力が競技者との出会いを豊かにし、競技者と共に実践・研究を繰り返したことから真理が生まれ、生まれた真理を源として有効な方法が自己確立され、理論となり、競技者に伝承される。」

真の教育、本物の指導とは後世への「繋ぎ」なのかもしれません。

  今回は大学時代の恩師、金原勇先生の学校体育論(共著)、金子明友先生の教師のための運動学(共著)を参考・引用させていただきました。感謝申し上げます。


                    (6)

  大学時代の先輩、伊藤章先生(大阪体育大学)が「もも上げ信仰の崩壊」と「なぜ、キックで足首と膝を伸ばすの?」と提言されています。
  この提言は、私が三十年来指導してきたスプリントトレーニングの原論であり、新里氏(※4)は前の提言に、大野氏(※5)は後ろの提言に、「その通りです。私はそのような理論に基づいたトレーニング方法を実践し強くなったのです。」と頷いてくれると思います。

  (※4)新里敏幸氏 四季の風vol.6vol.18 に登場
  (※5)大野功二氏 四季の風vol.9vol.18 に登場


  さて、11月25日〜26日に、現段階までのスプリントトレーニングを発表させていただく機会を持たせていただきます。夏冬五輪出場の青戸慎司氏も名古屋から来てくれることになっています。興味ある方はどうぞ御参加ください。


  次回は【霜月・立冬】です。

  今後はテーマの予告はせず、スポーツに限定せず、つれづれなるままにしたためていこうと勝手に決めました。
  今後もよろしく御教示願います。



Vol.1 JUVY 創 設
Vol.2 理想の指導者とは
Vol.3 素晴らしき指導者
Vol.4 回顧・2005年
Vol.5 新春は箱根と共に
Vol.6 凛として颯爽と
Vol.7 眼のつけどころ
Vol.8 視点・感点
Vol.9 思い出に残る一言
Vol.10 新たなる旅立
Vol.11 JUVY誕生
Vol.12 春のスポーツシーズン到来
Vol.13 指導者としての実践力とは
Vol.14 ジュニアとシニア・その1
Vol.15 ジュニアとシニア・その2
Vol.16 わたしなりに言いたいことを…
Vol.17 「眼に見えない力」
Vol.18 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その1」
Vol.19 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その2」
Vol.20 「トーナメント・有限と無限の交差点」
Vol.21 「定石とひらめき」
Vol.22「合同練習会」
Vol.23「国民体育大会」
Vol.24「心・技・体」

Circle-JUVY General Manager OKUZAWA Yasuo

Copyright(C) 2006 SANO SAC Circle-JUVY8 All Rights Reserved.