Vol.21(2006.9.8)
【長月・白露】 「定石とひらめき」
 この夏の甲子園は逆転の連続で、“金属バットの製品開発やウェイトトレーニングの普及によりホームランが量産された”と多くのマスコミが報じていました。金属バット云々は棒高跳のポールの開発と記録の向上同様頷ける話です。しかし、ウェイトトレーニングの普及とボールの飛距離との相関を今更取り上げることに苦笑せざるを得ません。それとも、良質な金属バットの開発普及だけで解決することは企業との秘密協定か何かがあり、まずいことでもあるのでしょうか。

 もちろん、ウェイトトレーニングの考え方にともなう新しい機器や方法論など日進月歩で開発されていることは当然の話であります。しかし、それにしてもウェイトトレーニングとボールの飛距離との相関を一般論として述べることは、唐突な気がします。

“ボールの飛距離はウェイトトレーニングのやり方を改善することにより…。”などと書かれれば私などは、(どのようなやり方をしたのだろうか?)などと興味を持ったのでしょうが。

このような報道が、発育途上の選手に過度な筋力トレーニングをさせることになりはしないかと危惧するのは私だけではないと思います。


以前、アメリカのスプリンター、モーリスグリーンが「深腹筋」の強化をすることにより100mで飛躍的に記録を向上させたことが報道されました。日本では末續選手の「ナンバ走法」などもスポーツ界を賑わせたものです。
しかし、これらはまだ一般論とは言えません。多くの人がトレーニングをする際には、まず一般的なことから始めることが常識となっていると思います。

上記のようなことが、本格的にトレーニングを始めたばかりの人たちの中心的な練習手段になることは、少なくとも今の私には考えられません。「それでは遅いのだ!」とお叱りを受けることは覚悟のうえですが…。ちなみに、江戸時代にはナンバが当たり前(つまり定石)であったと言われているようですが、ナンバを定石に変えるには、まだまだ多くの方々に理解してもらうための莫大なエネルギーが必要でしょう。

トレーニングを継続しているうちに(個の感性により)何かを発見し、創造や開発しトレーニングの流れが変わる時があります。これらは、「定石を実践する中での一瞬のひらめき」と考えてよいでしょう。そして、このような体験の積み重ねが大きな飛躍につながることが多いようです。上記の例はそのようなことに当てはまると考えたほうが自然です。


さて、甲子園です。素晴らしい試合が続きました。スポーツにおける作戦には定石というものがあるはずです。以前、横浜ベイスターズ石井選手の高校時代の指導者S氏と「スクイズは奇策か」という議論をしたことがあります。その時の内容はここでは省略することとして、作戦遂行上、定石通りに進める中で、ひらめきが定石を覆す瞬間が現れます。指揮官としてはこのような場合における瞬時の判断が難しいわけでしょうが、見る側からすると一億総評論家になれる楽しい時間です。

指導者は選手の能力を開発していかなければならない側面と選手の能力を発揮させてやらなければならない側面を持ちあわせなければなりません。いずれが欠けても指導者としては一流とは言われないでしょう。しかし、片方だけに天才的な能力を発揮する指導者もいます。そのような場合は、是非とも深い信頼関係のもと、育成者と指揮官がコンビを組み、「定石の計画的練習からひらめきを加えた練習」で鍛え上げた選手を「定石の試合展開からひらめきの作戦を遂行し」選手に夢を与えてください。


今回のテーマ「定石とひらめき」に関しての3つの提言です。

1 計画は定石通り作成するが、練習は定石通り進むとは限らない
  
練習計画の組み立てでは、私はまず一般論、すなわち私の中の定石をフルに活用しますが、それだけで進む気は全くありません。
例えば、兵庫国体に向けての「定石とひらめき」は以下の通りです。

JUVY TCの国体のための詳細な計画は国体予選終了後すぐに検討に入り、内定選手に大雑把な流れを伝えます。(今年は予選会終了5日後でした。)

その後1週間、選手は示された大雑把な流れをもとに大会までにどれくらい自分を大きくしていくかのイメージを膨らませます。

その後、再度ミーティングを開き、国体までに「何を目指すか」「なにから始めるか」「何をやっていくか」「どこにポイントを置くか」などの留意点を持って練習を進めて行くことを確認します。(今年は1週間与えました。)ここまでは、定石通りに進めます。

問題は実践に入ってからです。

計画の中には「ねらい」と「練習内容」がありますが、特に練習内容の具体的方法はJUVY方式で実践していくことが基本です。しかし、いわゆる「ひらめき」で、改良した練習内容や新しい練習方法をどんどん取り入れます。すなわち、練習内容は定石だけで進まないように配慮するわけです。

計画に沿って練習していくことは大切なことですが、「ひらめき」の練習は、ある意味軌道修正と考えられ、さらに大切なことなのです。

私の体験では「ひらめき」が多ければ多いほど、結果的には成功することが多いようです。そのことについて私は、「ひらめき」が出るときは脳が活性化している、すなわち指導者に氣が充満し、見えない力が働いているのではないかと推測しています。

2 定石通りの練習、定石通りの作戦を大切にするから、ひらめきが生きる

定石は大切です。ただし、本や講義などで得た知識を中心としたものをいつでも定石としているうちは、進歩はありません。定石というものは極めて深いものであり、統計的にみても普遍性を持つものでなければなりません。また、定石はオリジナリティを持ちながら、誰からも納得していただけるものでなければなりません。 

このような普遍性を持つオリジナルな定石を知っているからこそ「ひらめき」が生まれるのです。

怖いのは、ひらめきに似ている思いつきを信じてしまうことです。思いつきはその場しのぎのことが多いようです。ひらめきは当事者に役に立ち、未来に通用するものでなければならないのです。
    
定石通りに実践しながら、時に花火のようにひらめき、その時の花火の広がりを忘れずに脳裏に焼き付け、じっくりと実践し課題を解決していける指導者は本当に強いのではないかと推測しています。

3 同じ展開で進む試合は二つとないからこそ、準備にも同じやり方はありえない
  
練習は、目指す試合での成功をイメージし、計画的に作成するとともに内容を吟味しながら実践することが基本です。その際考えておかなければならないこととして、“同じ試合展開は二つとない”ということがあります。

ライバルと目される選手やチームも日々進歩していることを忘れてはなりません。従って、日々進歩しているライバルの確かな情報(生活態度・体力・技能・精神状態など)を収集する必要があります。

記録や順位より、表面には現れていない隠されたデータを確認することが、ライバルの分析に役立ちます。(普段の生活や練習、あるいは試合に備えたサブトラックでの状態や試合直前の些細な動きなどを観察し、作戦を立てることが大切なことがおわかりでしょう。)

もちろん、刻々と変化している、「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」です。自陣についても十分に分析し、適切に対処することも忘れてはなりません。

目指す試合に合わせた定石通りの練習計画の作成と、目指す試合に合ったひらめきで軌道修正した練習ができるということは、スポーツ関係者にとって最大の武器です。その際、指導者も競技者も感性に頼る部分が多くなることが必要なのではないかと推測しています


今回の結びです。
 
感性は理性より能力に影響を与えるものと考えます。

競技者の全てを管理しようとすると、人間にとって最も大切な感性が薄れます。細胞一つ一つで感じる動物的なモノと、人として大切な人間的なモノとのバランスを取り、総合的な感性を高め、人間として強くすることが、「定石を知り、ひらめきが生まれる選手」を育み、スポーツ文化の継承にもなるのではないかと思います。

指導者と競技者の内面は感性を通し、互いに空気のような存在になることがあります。

そのようなときの練習は、一滴の余りもなく互いの心身にしみこむはずです。


試合とは心を磨いてきた者の「心の公式発表会」です。そんな日のために練習を続け、体を鍛えるという行為を通し、心を磨き続けているわけです。

心を磨くには、多くの雑念が入った方が良い場合と、入らない方が良い場合があります。もちろん、雑念が入ることの多い合同練習会は精神的疲労が多くなるでしょう。

しかし、私は両方の体験が必要だと思っています。氣の知れた者通しの練習だけ続けるということは片肺飛行で飛んでいるようなもので、遠い世界に旅に出られません。

さて、国体候補選手は9月の土・日は毎週合宿と試合が続きます。本当にカラダを休ませるためには「心」・「身」同時に休ませなければなりません。練習は休みでも学校があれば効果的な回復は薄れます。

“easy−day”何もしない、何も考えずに済むような一日があると良いのですが…。

とは言っても、日程的に余裕がない今年、国体代表選手にとっては「合同」・「練習」・「回復」をキーワードにした緻密な計画が必要です。

次回は【長月・秋分】 テーマは「合同練習会」です。
Vol.1 JUVY 創 設
Vol.2 理想の指導者とは
Vol.3 素晴らしき指導者
Vol.4 回顧・2005年
Vol.5 新春は箱根と共に
Vol.6 凛として颯爽と
Vol.7 眼のつけどころ
Vol.8 視点・感点
Vol.9 思い出に残る一言
Vol.10 新たなる旅立
Vol.11 JUVY誕生
Vol.12 春のスポーツシーズン到来
Vol.13 指導者としての実践力とは
Vol.14 ジュニアとシニア・その1
Vol.15 ジュニアとシニア・その2
Vol.16 わたしなりに言いたいことを…
Vol.17 「眼に見えない力」
Vol.18 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その1」
Vol.19 「朱夏の熱き闘い・インターハイ その2」
Vol.20 「トーナメント・有限と無限の交差点」
Vol.21 「定石とひらめき」
Vol.22「合同練習会」
Vol.23「国民体育大会」

Circle-JUVY General Manager OKUZAWA Yasuo

Copyright(C) 2006 SANO SAC Circle-JUVY8 All Rights Reserved.